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財務と人財:
デジタル時代に成功を掴むには

財務部門がデジタル時代へと移行する中、最高財務責任者 (CFO) にとって最大の疑問の 1 つは「準備ができているか」ということです。テクノロジーの進歩とデータの急増により、財務部門の役割は劇的に変化しています。企業は競争の激化や絶え間ない変化に直面しており、財務部門には、テクノロジーを活用し、データから戦略の指針策定や意思決定の支援に役立つインサイトを引き出すことが期待されています。

IBM Global Business Services 社の金融・リスク・不正行為コンピテンス センターでアソシエイト パートナーを務める Naved Qureshi 氏は、財務の役割がどのように進化しているかについて次のように説明しています。「帳簿締めやトランザクション処理は、もはや最低限の仕事です。業務効率を向上させることは依然として重要ですが、CFO と財務部門は新たな利益のプールや成長機会に関するインサイトを求めて、戦略を策定し、収益を増加させる役割を担うようになっています。彼らには、これらすべてを「大量の情報」を活用することで実現することが期待されるようになります」

しかし、データやテクノロジーが大きな価値を生み出す可能性がある一方で、それらを効果的に活用できる適切なスキルを備えた適切な人財がいなければ、企業に真の利益はもたらされません。CFO や財務部門のリーダーは、今後必要となるチームの準備を今すぐ始めるべきです。さもないと、後れを取ってしまう恐れがあります。

この記事では、将来の財務部門に目を向け、そのために必要となるスキルを探ります。また、財務部門の現在の準備状況や、どうすれば財務部門のリーダーが必要とする人財を見つけ、育成できるかについても説明します。

「業務効率を向上させることは依然として重要ですが、CFO と財務部門は新たな利益のプールや成長機会に関するインサイトを求めて、戦略を策定し、収益を増加させる役割を担うようになっています」

未来の財務部門について

データと分析

会計や財務の従来のスキルはこれからも引き続き重要ですが、未来の財務部門のあり方は、今日のそれとは大きく異なるものになるでしょう。Ernst & Young 社の調査『The DNA of the CFO 2016』によれば、「財務部門の次なる進化は、データ ドリブンな意思決定センターになることである」とされています。

かつてない量の情報にアクセスできるようになったことで、財務部門はプランニングを推進し、企業全体の管理を支援するようになります。将来を見据え、予測分析を用いて未来のモデリングと予測を行い、業績を予測し、リスクを管理することに重点が置かれます。この調査によれば、CFO の 57% が、ビジネス インテリジェンスと経営情報のためのデータと高度な分析を提供することが、今後の財務部門の重要な機能になると考えています。

また、ビジネスをより的確に把握するために、医療機関の臨床スタッフのスケジュール管理システムや高等教育機関の学生システムから得られるデータなど、さまざまなデータをプランニングや予測に活用するようになるでしょう。

Ernst & Young 社の調査『The DNA of the CFO 2016』によれば、「財務部門の次なる進化は、データドリブンな意思決定センターになることである」とされています。

ビジネス パートナーシップ

ビジネス パートナーシップは今後、不可欠になります。今後の財務部門は、企業全体のエグゼクティブや事業部門のリーダーとさまざまな方法で緊密に連携することになるでしょう。Qureshi 氏は次のように述べています。「財務は CEO や経営幹部と連携し、収益性と経済の分析、価格設定、需要のプランニングと予測、製品およびサービスの開発、M&A などの適切な価値領域を支援することで、パフォーマンスを加速することになるでしょう」

多くの財務部門がこの領域の改善を目指しています。『The DNA of the CFO 2016』調査によれば、世界中の CFO の 67% が、財務と企業との間のビジネス パートナーシップを改善することが、重要な優先事項であると考えています。

この調査では、考えられるパートナーシップ モデルの 1 つとして、財務ビジネス パートナー、データ サイエンティスト、リーダーシップ チームのメンバーが連携することを示唆しています。まず、リーダーシップ チームが問題を特定して財務ビジネス パートナーに共有します。次に、財務ビジネス パートナーとデータ サイエンティストが協力してデータを分析し、問題の原因と傾向を特定し、解決のためのさまざまなシナリオをモデリングします。

『The DNA of the CFO 2016』によれば、世界中の CFO の 67% が、財務と企業との間のビジネス パートナーシップを改善することが、重要な優先事項であると考えています。

テクノロジー

テクノロジーは、今後の財務部門を支援するうえで、従来の機能の自動化と、より高度な分析およびインサイトの実現という 2 つの主な点において重要な役割を果たすでしょう。『The DNA of the CFO 2016』調査によれば、財務部門は今後、有効性と効率性を高め、インサイトを強化するために技術革新を採り入れることになるといいます。

クラウド、インメモリ コンピューティング、モビリティ、コグニティブ コンピューティングなどのデジタル テクノロジーは大きな影響をもたらすでしょう。クラウド モデルは、財務部門が戦略に集中する妨げとなっていたビジネス プロセスやトランザクション業務の効率化と自動化に役立っています。実際、この調査では、シェアード サービス、マネージド サービス、アウトソーシングをベースとしたモデルである「キャプティブ ファイナンス ファクトリ」で、すべてのトランザクション財務プロセスが完全に自動化されると予測しています。

Alight Solutions 社で Workday ファイナンシャル マネジメント (財務管理) 担当ビジネス開発マネージャを務める Greg Acevedo 氏は、自動化が財務部門の役割に与える影響について次のように説明しています。「財務システムの継続的な自動化と統合のおかげで、財務部門はトランザクション業務を中心とした組織から、ビジネスに分析と戦略的インサイトを提供する組織へと進化しています」

また、インメモリ コンピューティングを利用した財務システムによってライブ データの処理、分析、レポート作成が可能になり、リアルタイムの統合が実現し、決算処理プロセスが劇的に短縮されます。データへの簡単かつ迅速なアクセスと、適切なアクセスに必要な管理は、今後の経営および法律上の要件をサポートするうえで重要になります。

Care.com 社の財務会計システム コンサルタントである Dan Giurleo 氏は次のように述べています。「私たちは以前よりもはるかに複雑な世界に生きており、その複雑さ故に、経営幹部にとっても、さまざまな政府機関や税務当局にとっても、タイムリーで正確な情報がより一層必要なものとなっています。財務担当者は、財務レポートの複雑さよりも、その内容に重点を置けるようにしておく必要があります」

また、テクノロジーの進歩により、プランニング、予算編成、予測のプロセスも改善され、組織はビジネス成果を達成し、業績低下のリスクを軽減できるようになります。たとえば、新たなアプローチでは、プランニング、予測、レポート作成、トランザクションの財務データおよびワークフォース データを 1 つのシステムにまとめてインメモリに格納することで、財務担当者はビジネス データに正確かつ即座にアクセスできるようになり、ビジネス全体のステークホルダーとの効果的なコラボレーションが可能になります。

また、コグニティブ コンピューティングも、特にプランニングと予測においてさらに重要になるでしょう。IBM 社のレポート『Redefining Performance: Insights from the Global C-Suite Study—The CFO Perspective』では、CFO の 38% が、今後数年以内に自社を変革する可能性が最も高いテクノロジーの 1 つとしてコグニティブ コンピューティングを挙げています。

テクノロジーは、今後の財務部門を支援するうえで、従来の機能の自動化と、より高度な分析およびインサイトの実現という 2 つの主な点において重要な役割を果たすでしょう。

準備の問題

多くの CFO は、財務部門の将来への準備が整っておらず、スキルに大きなギャップがあると感じています。『The DNA of the CFO 2016』調査では、CFO の 47% が、将来の戦略的優先事項の要求に応えるための適切な能力の組み合わせが財務部門にはないと回答しています。

Deloitte Consulting LLP 社のマネージャ ディレクターである Charles Phillips 氏は、財務のデジタル化をサポートする人財を見つけることが課題になる可能性を指摘し、次のように述べています。「財務のデジタル化のための人財モデルではデータサイエンスとビジネス パートナーシップが重視されますが、多くの財務部門には、この変化を実現するための適切なスキルを備えた適切な人財がいません」

Institute of Management Accountants と Robert Half 社によるレポート『Building a Team to Capitalize on the Promise of Big Data』では、データ分析に必要な技術的スキルおよび技術以外のスキルを備えた会計と財務の担当者が著しく不足していると述べられています。具体的には、主要なデータ トレンドの特定、データのマイニングと抽出、オペレーション分析、技術的洞察力、統計的モデリングとデータ分析などのスキルが挙げられます。

その他にも、財務部門がより戦略的な役割を果たす妨げとなっている課題があります。テクノロジーの進歩にもかかわらず、多くの財務部門は依然として従来の財務管理システムを使用しています。このようなシステムではリソースと時間が無駄になり、ビジネスの変化に対応するために必要なデータや詳細なインサイトに容易にアクセスできません。

データ ドリブンな企業の実現において、企業文化も重要な役割を果たしています。財務部門だけでなく、企業の経営幹部が変化に対してオープンになり、データや分析を意思決定に進んで採り入れる必要があります。財務部門は、マネージャがデータの価値を理解し、データを利用する方法を学べるよう支援するという重要な役割を担うことになります。

分析とビジネス目標を結び付ける

今後の財務部門には、技術的スキルとビジネス スキルをバランス良く備える必要があります。「今日の財務担当者には、テクノロジーやデータサイエンスに関する確かな知識と、ビジネスそのものへの深い理解が求められています」と Phillips 氏は言います。

ビジネス コンテキストの中でデータを分析し、解釈できることが重要です。Qureshi 氏は次のように述べています。「財務担当者には、データサイエンスのスキルに加え、業界のトレンド、コスト、収益ドライバーを理解し、アクション プランを策定して財務への影響を理解する能力が必要になります」

また、財務担当者は最新のテクノロジーを理解し、それらを利用する方法も知っておく必要があります。『The DNA of the CFO 2016』調査では、回答者の 55% が、「モビリティ、クラウド、SaaS などの領域におけるデジタル テクノロジー スキルの向上」が、今後の財務部門にとって重要な人財とスキルの優先事項になると回答しています。

企業全体のリーダーと連携し、データ ドリブンな文化を構築するには、ソフト スキルも欠かせません。Qureshi 氏は次のように述べています。「財務担当者は、企業にとって信頼できるアドバイザーとなります。彼らは正確でタイムリーかつ関連性のあるデータを提供することで信頼を築き、さまざまな職務経験を持つ多様なチームと連携するためのコラボレーション スキルを備えておく必要があります」

コミュニケーション スキル、特にデータを解釈し、それが企業にとってどのような意味を持つかを伝える能力が重要になります。『Building a Team to Capitalize on the Promise of Big Data』レポートでは、次のように述べられています。「担当者はビジネスに関する知識を利用して、マイニングした情報を実用的なガイダンスへと変える能力も必要です。データ関連の取り組みを成功させるためには、調査結果を伝え、提案する能力が不可欠です」

データやテクノロジーが大きな価値を生み出す可能性がある一方で、それらを効果的に活用できる適切なスキルを備えた適切な人財がいなければ、企業に真の利益はもたらされません。

未来の財務部門の準備

適切な人財とスキル セットの組み合わせを見つけることは、CFO にとってより重要な優先事項となりつつあります。『The DNA of the CFO 2016』調査では、CFO の 22% が、「財務部門の人財の採用、維持、育成の方法を変革することで、新たなスキルへのニーズに対応すること」を今後の財務部門にとって最も重要な戦略的優先事項として挙げています。

KPMG 社で人工知能部門のリーダーを務める Shamus Rae 氏は、同社の顧客がどのように将来の計画を立てているかについて次のように説明しています。「当社のお客様は、「もしもテクノロジーが自分たちの考えている通りになったら、5 ~ 10 年後の組織はどのような姿になり、どのような人財が必要になるだろうか」と考え始めています。研修モデル全体が変化する中、将来的に財務担当者をどこから採用するのかという問題があります」

このようなスキルを持つ人財を見つけて育成することは、多くの組織にとって難しいことかもしれません。『The DNA of the CFO 2016』調査によれば、先進国は人財不足に直面しており、データ分析やデジタル分野の優秀な人財を巡る競争が激しくなっています。同様に、『Building a Team to Capitalize on the Promise of Big Data』レポートでも、「ビジネス分析スキルを持つ会計や財務の担当者を見つけることは困難である」と指摘されています。

だとすれば、CFO は将来的な人財確保に向けてどのように準備すればよいのでしょうか。1 つの方法は、チームに必要となる特定の役割と、各役割に最適なスキル セットを特定することです。『The DNA of the CFO 2016』調査では、これがどのようなものかを次のように説明しています。

「財務部門のリーダーは、スキル プロファイルに加え、継続的なトレーニングと教育 (新しいテクノロジーに触れることも含む)、キャリア開発、パフォーマンス測定、チームの各財務担当者への報酬に注意深く目を向ける必要があります。たとえば、財務ファクトリのリーダーには、無駄のない技術と最先端テクノロジーによってプロセスの卓越性を高めるためのスキルと経験が必要になります。これは、新しいデジタル サービスや製品の導入など、ビジネス モデルの変化を分析してモデリングするスキルと経験を備えた予測センター オブ エクセレンスのエコノミストの特徴とはまったく異なります」

また、データ サイエンティストも、データの解釈と分析を支援するという財務部門の重要な役割を担うことがあります。『The DNA of the CFO 2016』調査では、財務部門のリーダーが求めるべきスキルが次のように示唆されています。「必要なのは従来の財務分析スキルだけではありません。統計学者やデータ サイエンティスト、さらには行動科学者といったデータの専門家は、将来の財務部門がデータを新鮮な視点や戦略インサイトへと変えるための支援において、重要な役割を果たすことになるでしょう」

組織は、現在の財務部門の中でこれらのスキルを持つ人財を育成することもできますが、従来のトレーニング アプローチよりも多くのことが必要になるかもしれません。Acevedo 氏は次のように述べています。「ほとんどの財務部門のリーダーは、データ分析のスキルを向上させるために、数学の授業からやり直させることはできません。正式な研修という選択肢もありますが、グループ プロジェクト、ブレインストーミング、コラボレーション セッション、ジョブ ローテーションを優先しながらフィードバックを推進することで、重要なスキルの発見と育成に取り組むこともできます」

また、Qureshi 氏はビジネスの他の分野で経験を積むことの重要性も強調しています。「まずは潜在能力の高い人財に的を絞って採用し、それらの人財と選抜したその他の社員を他の職務や事業部門とのローテーション プログラムに参加させます。そうすることで、ビジネス、財務、および機能横断的な洞察力とチーム スキルのリンクが構築されます」

組織は、ワークフォースの人口構成の変化と、それが人財の採用と維持にどのように影響するかについても考慮するべきです。2025 年までに、ミレニアル世代がワークフォースの 75% を占めることになります。この世代は、これまでとは異なる価値観やニーズを持ち、新しい経験や学習機会を求めています。財務の従来のキャリアパスでは、もはや十分ではないかもしれません。

今後の財務部門の成功は、適切なテクノロジーと適切な人財およびスキル セットの両方を獲得できるかにかかっています。今こそ、財務部門の準備が整っているかを確認し、ビジネスの将来のニーズに対応するために何が必要なのかを検討するべきです。